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処女はお姉さまに恋してる 樱の园のエトワール (青空文库txt形式

作者:高考题库网
来源:https://www.bjmy2z.cn/gaokao
2021-03-02 15:38
tags:

-

2021年3月2日发(作者:fanatics)


処女《おとめ》は|お姉さま《ぼく》に恋してる



櫻の園のエトワール



嵩夜あや




-------------------------------------------------- -----


【テキスト中に現れる記号について】




《》


:ルビ



|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号



(例)処女《おとめ》は|お姉さま《ぼく》に恋してる




[#]


:入力者注



主に外字の説明や、傍点の位置の指定



(例)


[#改ページ]



--------------------------------------------- ----------




少し控え めな日差しが桜並木を縫って湿った石畳を優しく照らしている。




昨夜の雨に濡れた桜の若葉が雫をきらきらと光らせながら、 鮮やかな緑色を透かして揺


れている…校舎までの短い桜並木に、少女達の黄色い笑い声 と軽い靴音が弾むように響い


ている。




その光景は、とても清純で美しく、清々しい。





ここは、恵泉女学院――。





明治十九年に創設された由緒ある女学院。日本の近代化にあ わせ、女性にもふさわしい


教養を学ぶ場が必要だ、という理念に基づいて創立される。 英国のパブリックスクールを


原型として、基督教的なシステムを取り入れた教育様式は 現在まで連綿と受け継がれてい


る、いわゆる『お嬢さま学校』である。戦後再建時に幼 稚園から女子短期大学までの一貫


教育施設となるが、その基本的なスタ?ルは現在も変 わらない。




モットーは慈悲と寛容 。年間行事には奉仕活動や基督《キリスト》教礼拝など、宗教色


も色濃い。それに加え て日本的な礼節.情緒教育も行われているため、普通の義務教育機


関とはいささか趣が 異なる点が多い。




生徒の自主性を 尊重するため服装規定等校則もゆるいが、徹底した情操教育によるもの


か、生徒内自治 がある程度効果を上げており、大幅な校則違反はほぼ見受けられることは


ない。それだ けに、若干世間から隔絶した感もある。





あの錚々《そうそう》たるメンバーを送り出した春から、早 八ヶ月。




並木の桜たちも、浮つい た気持ちはそろそろ終わりと生徒たちを戒めるように、優しく


静かに葉を散らせ始める 晚秋。




昨年度エルダー.宮小路瑞 穂《みやのこうじみずほ》を筆頭に、十条紫苑《じゅうじょ


うしおん》


、厳島貴子《いつくしまたかこ》


、御門《みかど》まりや……第百九期メンバ ー


が卒業し、恵泉女学院も燈も消えたような寂しさに包まれて……?

< br>



いいえ、そんなことはありません。




小さい芽かも知れないけれど、そこにはまた、可憐で美しい花を咲かせようとする蕾た


ちが。




新 しい出逢いと別れを繰り返して、少女たちは成長し…そして大人になってゆくのだか


ら 。




見えるでしょう?



櫻の園の中で小さな輝きを放つ、おぼろげな光たちが。





不安と希望に揺れる―――櫻の園の、エトワール。



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会議は踊る.秋の胸騒ぎ




「おはようございます!




「おはようございます、お姉さま!






冬晴れの空の下、朽ち葉の桜並木 には…それでも爽やかな乙女たちの清麗な声が谺《こ


だま》している。



「ええ、おはようございます……今日も良い天気ですね」




その中で一際、乙女たちの視線を一心に受ける少女の姿があ った。




たおやかな黒髪には緩やか なウェーブが掛かり、


その黒い瞳には理性的でありながらも、


優しげな光が宿っている。



「おはようございます……かぐやの君」




そう云われて振り返るのは、今年度のエルダーにして生徒会 長、菅原君枝《すがわらき


みえ》その人である。


< p>
「……お、おはようございます。葉子さん……ねえ、その二つ名は恥ずかしいからやめて


頂けませんか?」




声を掛けたのは、二年連続で生徒会副会長を務める門倉葉子《かどくらようこ》だ。



「どうして?



せっかく評判を博した 生徒会劇『かぐや姫』から付いた名誉ある二つ名だ


っていうのに」



君枝は表情を変えずにからかいを入れてくる葉子に、 困ったような視線を向けると、直


ぐに二人並んで步き出した。



「……エルダーに選ばれた時は、私に二つ名なんて絶対に縁はないだろうって……そう 思


っていたのに。だいたい、葉子さんだって『帝の君』って呼ばれるの、嫌がっていた じゃ


ないですか……」



< p>
双方共に、学院祭の生徒会劇の役名がそのまま付けられた二つ名だった。君枝は「かぐ

< p>
や姫」


、そして葉子は「帝」…そんなはまり役で劇は大成功。そして、二 人には役名そのま


まの栄誉有る二つ名が定着したのだった。



「私はいいのよ…ただの副会長なんだから。でも、君枝は会長である前に『エルダー』 な


のだから。二つ名くらいは甘んじて受けないとね」



「……はあ、そう云うだろうとは思っていましたけれど」




君枝の性格的に、本来自分が目立つような行動は忌避しよう とするのが当然ではあるの


だが、こと立場がエルダーともなればそうも云っては居られ ない。そして君枝は、敬愛す


る貴子にその意志を託された以上、そこから逃げることな ど…これまた彼女自身の性格が


許さなかった。




結果的に君枝は、周囲の助言やサポートに助けられながら、 真実「エルダー」としての


度量と、器量を手に入れつつあった。



「まあ、私も君枝がそんなに頑張るとは思ってなかったから……嬉しい誤算だった わね、


そこは」



「だ、だって……ま さか私、貴子さまやまりやさまが卒業後までお手伝いして下さるなん


て、思ってもみな かったんですもの」




貴子の談によ ると、まりやは君枝に光るものを見出したらしく、卒業後も良く貴子を引


き連れて学院 に足を運んでは、君枝に化粧やヘ?ケ?、スキンケ?に関するハウツーを叩


きこんでい った。



「ああ。でもあれはどうも…本音はあなたと一緒に貴 子さまも鍛えるのが目的だったらし


いわよ?」



「えっ…そ、そうなの……?」



「ま りやさまが貴子さまのセンスを見るに見兼ねて…君枝さんを教える振りをして、付い


て きた貴子さまも一緒に鍛えていたらしいわね」



< p>
葉子にそう云われて、君枝はその時の様子を思い浮かべていた。



「そ……そう云えば、私よりも貴子さまの方が沢山怒られていて……あれはお二人の性格


的な



部分がそうさせているのかと思って いたのだけれど……そう云うことだったの


ね……」




貴子が瑞穂との初デートに、私服と云って豪奢《ごうしゃ》 なロングドレスを着て現れ


たことは、今年の生徒会の間では伝説的な語り草になってい たから、その話を聞かされて


君枝も素直に納得した。



「まりやさまの性格的に、貴子さまの為だけに教える…というのは恥ずかしくて嫌だった


のでしょうね……ふふっ、変なところで素直じゃない人よね。まりやさまは」




そう葉子は分析しながら、愉快そうに笑った。



「それにしても……本当に君枝は綺麗になったわね」



「えっ…そ、そうかしらか……そんなことは……」




元々几帳面で生真面目な君枝のことだ。やり方さえ判ってし まえば、毎日のケ?だろう


と欠かすはずもない。君枝の化粧はみるみる効果を上げ始め た。そばかすもすっかり消え


た今では、その美貌と玉の肌…そして流れる黒髪は学院の 憧れと呼ばれるに相応しいもの


となっていた。



「だめですよぉ副会長、会長を誘惑しちゃぁ~」



「……可奈子」



< br>肩口までのウェーブヘ?をぴょこぴょこと揺らしながら、後ろから二人の前に回り込む

< br>元気いっぱいの少女。二年連続で生徒会書記を務める烏橘可奈子《うきつかなこ》だ。

< br>


「おはよう、可奈子さん」



「おっはようございまぁ~す。会長、今日も綺麗~」



「あ……ありがとう、可奈子さん……」




二年生になっても、彼女の独特の会話ペースは健在で、葉子 からはいい加減にその喋り


方をやめるようにと云われているのだが、本人は全くそしら ぬ顔である。



「そうそう、今日は確か、放課後は会議でしたよね~?」



「ええ、そろそろ次期生徒会の人選を進めないとね」



「早いものね……もうそんな時期なんだ」




葉子の声には、珍しく感慨が籠もっている。



「あまりに目まぐるしかったから…色々なことがあったのに、本当にあっという間でした


ね」



「そうね……あら、もうチャ?ムの鳴る時間 ね。急ぎましょう君枝、可奈子」




葉子の声に急かされて、少しだけ步くペースを速くする。恵泉の生徒たるもの、スカー


トを翻して走り回る訳にはいかないのだから……。




「おっはようございま~す!





元気な挨拶と共に自分のクラスに飛び込んだ可奈子は、自分 の机に鞄を放ると、くるり


とその場でターンすると窓際の方を向いた。



「おはよう。それにしても、可奈子はいっつも朝からテンション高いわよね ……」



「ふふっ…おはようございます、可奈子さん」




最初に挨拶を返したのがクラスメ?トの上岡由佳里


《かみおかゆかり》



そしてその後に


続いたのが周防院奏


《すおういんかな》



この三人は、


2‐Cの有名人トリオと云われてい

< br>る。




可奈子は無論、一年生 の頃から生徒会に参加している俊秀として。




奏は、


二年生にして演劇部の副部長であり、


その上 演出と演技指導を部長と共に担当し、


今年の学院祭では去年に引き続きヒロ?ン役を熱 演、見た者を涙と感動の渦に叩きこんだ


張本人である。その時の役名と、抜けるような 白い肌の色を掛けて「白菊《しらぎく》の


君」の異名で呼ばれるようになった。




そして由佳里は、二年になった早々三年 生の部長と意見を対立させた後、自らが部長に


就任。二年生にして陸上部を引っ張る立 場となった。これは「陸上部事変」として語り継


がれることになり、その後良く一緒に 行動していた奏の対極として、由佳里はその陽に灼


けた肌の色から、

< br>「|號珀《こはく》の君」として知られるようになったのだった。それと


共に料 理の腕前の話なども拡がり、異彩の運動少女としてその校内に於ける人気を不動の


もの としたのだった。



「そうそう、二人にちょっとお願いがあって~」




挨拶も済まないうちに可奈子は奏たちに次の話題を切り出す 。まあ、奏たち二人にして


みればもう慣れっこなので、可奈子の方に向き直って話の続 きを待った。



「今日の放課後、生徒会室でちょっとした会議 があるんだけどぉ…良かったら二人とも、


ちょぉっと手伝ってくれないかなあ~って」




可奈子はそう切り出すといつもの ニコニコ顔で笑う。二人が断るなんて、おくびにも思


っていないと云う顔だ。



「私は別に構いませんけれど…由佳里ちゃんには陸上部の練習がある んじゃありません


か?」




奏がそう云って由佳里の方を見る。由佳里は小さく肩を竦めると、笑って可奈子の方を


見る。



「確かに練習があるんだけど…可奈子 がこういうお願い事をする時ってさ、なぜか必ず強


制的に出席させられるんだよね、大 体はさ」




すると可奈子は、不服そうに頬をふくらませる。


< p>
「あ~、ひっどいなあ…私ってば無理に頼んだことなんて一度もないのになぁ」

< br>



確かにそうなのだ。だが可奈子が頼み事をした途端 、何故かもう一方の用事が急にキャ


ンセルになったり、その用事が片づいてしまってい たりするのだった。



「まあ良いよ。で、その会議って…何をするのよ?」



「それはぁ…出席してのお楽しみってことでぇ……」




由佳里の質問に、可奈子は楽しそうに微笑んだ………。




「気にならない、と云ったら嘘よね」




昼休み、食堂に集まった四人は各々の大好きなメニューを携 えて、いつもの席に座って


いる。



「 まあ、この時期ですから…次期生徒会のメンバー選出に関わることなのではないか…と


は、薄々推測しては居ましたけれど……」




由佳里の問題提議に奏が答える。そして、その横でパスタを頬張っていた背の高く――


百七十センチはあるだろうか――長い髪の少女が、少しワ?ルドな感じのする切れ長の瞳


を由佳里に向けた。



「でも、そんな生徒会の会議 にどうして由佳里さんと奏お姉さまが呼ばれるんです?」




彼女は七々原薫子


《ななはらかおるこ》



今年新しく寮に入った一年生。


外部からの転入

< p>
生で未だ言葉遣いが蓮葉なところがある。



< /p>


彼女は寮内に於ける奏の「妹」で、由佳里達からは「逆転姉妹」と呼ばれている。夜に< /p>


なると何故か奏が薫子の部屋にお茶を淹れに行くという…そんな姉妹なのだ。

< p>


「だーかーら、学院に居る時はあたしにも『お姉さま』って付けろって 云ってるじゃない


の…ホント、癖が抜けないわね薫子は」



「すみません、裏表の無い性格なもので…あはは」




能転気な由佳里と薫子の遣り取りに、由佳里の隣に座ってい た女の子がおずおずと口を


挟む。



「 えっと…本題から大分ずれてしまっているのですけれど…それで、どうしてお姉さま方


はその会議に呼ばれているのですか?」



< br>彼女は皆瀬初音


《みなせはつね》


やはり今年から寮に入った一年生だが、


こちらは幼等


部か らずっと恵泉育ちである生粋のお嬢様。両親が転勤することになったのだが、温室育


ち の娘を余所の一般の高校には通わせられない…という理由でそのまま恵泉の寮に入れら


れることになった。




こちらは由佳 里の「妹」で、少し甘えん坊な「お姉ちゃんっ子」の感じがある。


< br>「それはね…現生徒会が、私か由佳里ちゃんのどちらかを……生徒会長に指名しようと考


えているのではないか…っていうことなのよ」



「そ…それ本当なの


!?


奏お姉さま!





奏の言葉に驚く薫子。初音も同様だ……その言葉に由佳里の 方を見詰めている。



「ま、


あれよね …可奈子と一緒のクラスになったのがまずかったと云えばまずかった……」




由佳里は過去を思い出すかのように腕を組んで、考え込む振 りをした。



「まあ…可奈子さんにしても悪気がある訳ではな いのですから……」



「……当たり前よ。あれで悪意があった ら史上最悪の策謀家になれるって、あの子」




可奈子と一緒のクラスになって以来、


二人は何かと可奈子の頼まれごとに関 わっていた。


大抵それは生徒会がらみの仕事で、今考えてみると、それらが全部役員候 補への布石にな


っていることは明らかだった。




姉たちの会話を聞きながら、薫子と初音はお互いの姉の顔を 覗き込む。



「でも奏お姉さま…由佳里お姉さまもそうだけど 、二人とも部活があるんだし…生徒会に


なんて関わってる暇は無いんじゃありません? 」



「そ、そうですよ……お二人とも部長と副部長なんですし」




薫子の直球な意見に、初音が控えめに援護射撃をする。



「まあ、それは私たちも解っているのよ初音。でも、この場合は私たちがどうしたいか…< /p>


と云うことが問題になるのではないのよ」


「そうですね…指名して頂けることは名誉だとも思うのですが、私たちにもやりたいこと

< br>は有りますからね。演劇部を辞めてまで生徒会に入ろうとは思いませんし」



「そうよねえ……」




取り敢えず、四人で悩んでいてもこの問題が解決しよう筈もないので、冷める前に昼食


を済ませることにした。




「さて、皆さんをお呼びしたのは他でもありません……来年の生徒会メンバーとして、ご

参加頂けないかをお伺いする為です」




―――放課後。



< br>職員用の会議室――その議長席に座った生徒会長.菅原君枝の口から、暖かみのある…

< br>けれどはっきりとした強い口調が室内に響き渡った。



「本来、生徒会の活動は生徒自身の意志によって進んで行われるものであり、押しつけら


れて行うものではありません……ですがその業務の性質上、何らかの適正な資格や能力が

求められるのです。本日は私どもがそれを認め、相応しいと思われる方を集めさせて頂き

< br>ました」




副会長の葉子が君 枝の言葉を引き継ぐと、集会の趣旨を簡潔に説明した。



< /p>


その場に集められたのは一年生、二年生合わせて十五人ほど…その中には奏や由佳里も< /p>


当然として、何故か薫子と初音の姿があり、姉二人は内心で驚きを隠せなかった。




しかもその集められたメンバーを見る限 り、既に部活動や委員会で活動している人間が


ほとんどであり…それはつまり、決定は 一筋縄ではいかないことを暗示している。



「……君枝会長、質問があります」




本筋であろう話し合いが始まる前に、由佳里が挙手して会長に話しかけた。

< p>


「なんでしょう、上岡さん」



「その、ここに選ばれたっていうのは……一体どういった基準で?」




不信感たっぷりの由佳里の表情に、君枝は思わず顔を綻《ほ ころ》ばせると、口を開い


た。



「先 ほど副会長が説明しましたように…適正な資格、例えば優れた事務処理能力を持って


い る方や計画処理能力を持っていらっしゃる方々。そして、牛徒会を運営して行くに相応


しい…そう、統率力を持っていらっしゃる方―――」




その言葉と同時に、君枝は由佳里を見て微笑む。


< p>
「そう、例えば…二年生にして陸上部の体制を刷新し、そのリーダーになった上岡由佳里


さん、貴女のような」



「な………

< p>
!?




「そしてご自分 の敬愛するお姉さまの為に、決闘も辞さなかった正義感の持ち主……七々


原薫子さん、 貴女のような」



「ええっ……あ、あたしっ

< br>!?




突然自分の名前を呼ばれ、後ろの席で様子を見守っていた薫子も立ち上がって声を上げ

た。



「恵泉女学院生徒会は…その伝統も引き継ぎながら 、常に新しい風を吹き込んで行かねば


なりません……OGのお姉さま方に、つまらない 学校になったと云われぬ為にも……ね」



< br>そうして君枝は、優しい笑顔で集められた者達を見回していた―――。



[#改ページ]






いと小さき、君の為に




「はっ、はっ、はっ、はっ……」




春、桜の花が散って青葉の揺らぐ並木道に、二つの足音が響いていた。



「大丈夫?



初音……少しペース落とそうか」



「い、いえっ…も、もう少しがんばりますから…っ………」




二人の影は石畳を横断すると、そのままジョギングコースへ と入って行く――。



「はぁっ、はぁっ、はぁっ……」




校庭の隅に仰向けに倒れ、大きく胸を上下させて苦しそうに呼吸する……そんな初音の


傍らに、由佳里は屈み込んだ。



「大丈夫?



無理はしなくて良いのよ」




心配そうに覗き込む由佳里に、初音は苦しそうな表情に、微かな笑顔を加えて見せた。



「はぁ、はぁ……私、いままで運動ほとんどしていなかったから… 罰が当たってるんだと


思います……」



「あら初音ったら……運動って云うのは義務でするものじゃないのよ?」



「ふふっ……そうですね……」



< /p>


五月……寮での妹になった初音は、由佳里に「自分も陸上部に入りたい」と云った。




由佳里としては反対する理由もなかっ たので快く迎え入れたが、初音は学校の授業以外


では全く運動の経験が無く、そんな初 音を必然的に由佳里は面倒を見ることになった。



「でも…初 音がこんなに頑張るなんて思っても見なかったな…もっとすぐに音を上げると


思ってた 」




由佳里は、初音の額に汗でへば りついた髪を整えてやりながら、楽しそうに微笑んだ。



< /p>


当初、初音のあまりの足の遅さと体力のなさに辟易《へきえき》し掛けた由佳里だった< /p>


のだが、一生懸命に努力しようとする初音の一途さに打たれ、今ではこの健気な妹の面倒


を見るのが楽しくて仕方がなくなっていた。



「あ、ああの……くすぐったいです、由佳里お姉さま……?」



「え?



あ、ああっ


!?


ご、ごめん!





髪を整えてやっていたつもりが、考え事をしているうちにい つの間にか初音の頬を撫で


てしまっている自分に気付いて、あわてて手を引っ込めた。




きょとんとして見詰め返す初音を 、由佳里は女の子ながら可愛いな…と思ってしまう。




自分にはない、


女の子らしい部分を詰め込んだ子…由佳里は初音を 見るたびにそう思う。




白い肌に綺 麗な淡い菫色の瞳、内気な性格とか細い声……まるで硝子のように輝く、波


打つ綺麗な 髪……どうして自分はこんな風に生まれてこなかったのか、そういった想いと


共に、そ んな子が自分のことを慕ってくれていると思うと、何とも云えない嬉しい気分に


なって しまうのだった。



「あの、お姉さま……これでは、いつまで 経ってもお姉さまがご自分の練習にお戻りにな


れません。私、自分で練習しますから、 お姉さまはどうか……」




由佳里は 初音に心配そうに見詰められると、はっと我に返った。



「え 、あ…うん、大丈夫よ。もう少し付き合うから。後輩の指導だって、あたしの部活内


容 のうちなんだからね」



「お姉さま……ありがとうございます」




由佳里の返事に、初音は掛け値無い笑顔で歓びを表現する。 そんな笑顔に見惚れて、由


佳里は気付いていなかった。




……周囲にあった戸惑いの視線を。




「えっ、あの……?」




次の日、いつものように初音の練習に付き合っていると、由 佳里は部長である三年の多


岐川千佳《たきがわちか》に呼ばれた。


「ですから…上岡さんは少々、皆瀬さんに手を掛けすぎなのではないかと、そう 云ってい


るのよ」




由佳里が云われたことを反芻して考えていると、千佳の言葉が畳み込むように続けられ


た。



「……紀香《のりか》や美和《みわ》が居てく れれば、私も上岡さんにこんなことを云う


必要は無いのだけれど…まりやお姉さまも、 余計なことをして下さったものね」




千佳の一言に、由佳里は何かカチンと来た。それが「まりやの妹」である由佳里に対し


ての間接的な嫌味であることにすぐ気が付いたからだ。




紀香と美和という二人の先叢は、



ま りやに陸上部を辞めさせられた」


ことになっている。


現部長で ある千佳としては、仲の良かった二人が「辞めさせられた」経緯に納得が行って


いなか ったらしい。それが、まりやの在学中には云い出せなかったことが、ここに来て噴


出し てしまったのだった……。



「そんな云い方は無いじゃありま せんか……まりやお姉さまだって、好きでそうしたわけ


じゃ……無いかも知れないのに 」




思いも掛けなかった由佳里の反 抗に、千佳は微かに眉を吊り上げた。



「好きでも何も…嫌が るあの子たちを無理矢理辞めさせたじゃないの……」



「千佳部長……」



「とにかく良いわ ね。上岡さんも、皆瀬さんの世話はほどほどにして、他の新入生たちの


指導に回って頂 戴」




由佳里はそんな千佳の表情に 理不尽を感じたけれど、まりやの決心のことを思うと、そ


れ以上口を動かすことは出来 なくなってしまっていた……。




「……そんな事になっているとはね」




その日の午後、寮には卒業したまりやがやって来ていた。夏 過ぎから?メリカで新学期


が始まっていたけれど、丁度親の用事で日本に戻ってきてい た。



「すみません、折角遊びに来て下さったのに…こんな話」


< /p>


「いんや…そう云う話をするのも楽しいもんよ。そう、千佳がそんなことをねえ……」< /p>




由佳里が掩れたロ?ヤルミルクテ? ーを楽しみながら、まりやは何事か考えている。



「ま、初音 ちゃんを猫っ可愛がりしていた由佳里にも問題はあるかも知れないけど、それ


とこれと は全然次元の違う問題だしね」



「はあ……でも、最上級生の お姉さま方は皆さん、楽しそうに新入生の指導をなさってい


たと思うんですけれど…… そんなことを云われると、少し考えちゃいますね」




そう云って困った顔をする由佳里に、まりやは「やれやれ」と云った感じに笑うと、ぱ


んぱんと肩を叩いた。



「ほれほれ、いつま でも腐ってないで…今日は約束通り、初音ちゃんにあたしのお古持っ


て来てやったんだ から…そんな顔するな」



「あは、そうでしたねっ!





そう笑顔で返事をした由佳里だったけれど…結局そのあと、 由佳里の表情が晴れること


は無かった。




「例えば、あたしが千佳に何か云ったとして……」




夜の並木道。帰るまりやを学院の校門まで送り届ける途中、 まりやは突然話し始めた。



「それは根本的な解決にはならな いわね……あたしが居なくなればまた同じ所に逆戻り。


千佳がそんな子だとは思わなか ったけど……ま、部長としての器がなかったのね」




まりやはそういって一方的に千佳を責めるけれど、由佳里はそう思っていなかった。自


分の方にも非を認めて……けれど、千佳の言動にも納得が行っていなかった。



「まったく、由佳里は損な性分だなぁ」



「きゃっ、いた、いたたっ……!





そう云ってまりやは、急に由佳里の頭をグリグリと撫でる。



「………いい?



由佳里。あたしの事 なんてどうでも良いんだ。悪く云われるなら云わせ


ておきな…それに、あんたがあたし の妹だからって、あんたが引け目を感じることじゃな


いよ」



「まりや…お姉さま……」



「今のあ んたは……陸上をすごく


『楽しんでいる』


< br>それは確かに、


大会で勝ちたいとか…


そういう『競争心 』を求める方向からはずれているかも知れない。でもね、学校の部活な


んていうのは、 それで良いんだと思うのよ……そもそも恵泉の陸上部なんて、どう頑張っ


たって地区大 会止まりのレベルなんだから」



「でも……良いんでしょうか……」



「良いと思うよ、


少なくともあたしは。


大事なのは

< p>
『やる気』



『頑張った想い出』


さ……


あたしも別に、記録が出ないとか、周りに悪い影響があるっていう理由 だけで紀香たちを


辞めさせた訳じゃないんだからね」



「お姉さま……」




まりやは由佳里の頭から手を離すと、軽くウ?ンクをして見せた。



「あんたがやりたいようにやんなさい。楽しんだモン勝ちなのよ、こういう時は……じゃ


ね!





気付くと二人はいつの間にか校門の所まで来てしまっていた。軽く手を振ると、まりや


は由佳里の方を振り返らず、楽しそうに步いてゆく。その背中には後悔も逡巡も感じられ


なかった。



「まりやお姉さま!



ありがとう!





聞こえていないように見えるその背中に、けれど由佳里は、 大きな声で叫んだのだっ


た……。




「あの…宜しかったのでしょうか」




その夜、由佳里の部屋にお休み前のお茶を淹れにやって来た初音が、少し顔を赤らめて


そう云った。



「……何が?」



「その、まりやお姉 さまからのプレゼントです……あんなに素敵なお洋服を何着も頂いて


しまって。由佳里 お姉さまは一着も頂いていらっしゃらなかったのに」




別に由佳里は遠慮したわけではない。単に自分にそれが似合わないことを解っていたか


らだ。一年の頃であればまだしも、今はもうかなり身長も伸びたし、それに何より部活潰< /p>


けで健康的に日焼けしてしまっている…まりやのお古であるところの、恒例のひらひらゴ


スロリなんて、着ようと云う気すら起こらなかった。その点、初音はお人形みたいに繊 細


で華奢《きゃしゃ》だったから、着る衣装着る衣装、まるであつらえたようによく似 合っ


ていた。



「そういえば、初音は 焼けないね…部活を始めるようになって、結構外にいる時間も多く


なったのに」



「日焼け止めをしてるんです。肌が弱いので…かなり厳重に」




何故か申し訳なさそうに、初音が答える。



「そっか…でも初音は肌が綺麗だから、白い方が映えるよね」




由佳里の言葉に、初音は顔を真っ赤にする。



「そ、そうでしょうか…あの、そういうお話なら、お姉さまも小麦色の肌がすごく恰好良


い……です」



「え、いや…別に無理して褒めてくれなくてもいいよ」



「ほ、本当にそう思いますっ……!





軽く受け流そうとしたところ、案外に初音が自説を主張して 見せたので、由佳里は驚い


て目を丸くした。



「そ……それはどうも、ありがとう………」




当の初音は、云ってしまってから顔を真っ赤にして、まるで 湯気が噴き出しているかの


ようだ。そんな初音の様子を,由佳里は楽しそうに眺める。



「本当は…私も由佳里お姉さまと一緒に日焼けしたいんです 。でも肌が弱いから、焼けな


いで真っ赤になっちゃうんです……」



真剣な面持ちでそんな風に話す初音を、由佳里はとて も愛おしく思った。まりやが自分


を見ていた時も、こんな気分だったのかな…なんてい う風に考えたりもした。そして由佳


里は気が付いたのだ。




……今の自分にとって、何が大事なのかって云うことに。





次の日、由佳里はひとつの決心をして、千佳の前に立った。



「千佳部長……その、少し宜しいですか?」




由佳里の表情に何かを感じ取ったのか、千佳の表情も僅かに 硬くなる。



「……何かしら」




少し奥まった場所に移動してから、千佳は由佳里に用件を尋 ねた。



「昨日のお話なんですけれど…確かにあたしは初音に 注力しすぎていたかも知れませ


ん……でもあたし、約束したんです。初音がちゃんと走 れるようになるまで教えるって」




由佳里の発言に千佳は「予想通りね」といった目つきをすると、苫々しい表情で由佳里


のことを見詰め返した。



「貴女はまりやお姉さまにそっくり ね。そんな風に、なんでも自分の思い通りになると思


っているところも



「……っ、まりやお姉さまは関係ありません。そんなに紀香さま達を辞めさ せたのが気に


入らなかったなら、なぜまりやお姉さまに直接|仰有《おっしゃ》らなか ったのですか?



あたしに八つ当たりしたって、今更どうにか なるような話ではないでしょう」



「な………っ!





毅然と由佳里に反論され、千佳は瞬発的にカッとなったのだ ろう、本人知らずのうちに


腕を振り上げていた。



「……………っ!





叩かれる、と思って目をつむった由佳里だったが、振り下ろ される筈の腕は一向に降り


てくる気配がない。



「………何を……っ


!?


紀香、美和…どうして!





千佳の狼狽した声に由佳里が眼を開くと、彼女の振り上げら れた手は何者かに捕まれ、


未だ頭上で停止していた。




そんな千佳を抑えていたのは、


なん と去年部活を辞めた筈の、


紀香と美和の二人だった。



「先輩方……どうして?」




紀香と美和は、由佳里の問いに互いの顔を見交わすと、苦笑いを由佳里に返した。

< p>


「まあ一応、何と云うか……自分の最後の責任を果たしに…ってところ かしら」




紀香は、そう云ってつかんでいた千佳の腕を放した。



「千佳にちゃんと話さなかった、私たちの責任だからね」



「美和さん……」




突然のことに呆気に取られていた千佳は、名前を呼ばれて美和の方を振り返った。


「ごめん……その、千佳」



「……なんで、美和さんが謝るの?



一体、どういうこと?」



「貴女には ちゃんと云っていなかったけれど……私たちが陸上部を辞めたのは、まりやお


姉さまの 所為じゃないの」




紀香の言葉に、 千佳は一瞬眼を見開く。そのあと「よく解らない」と云った表情で二人


を見詰め返した 。



「私たち…その、陸上に対してやる気を失くしていたのよ 。そんな時、まりやお姉さまが


それに気が付いて……相談に乗って下さったの」



「けれど、この学院では…なんというか、自主退部はとても居心地 の悪いものでしょう?



だから自分たちから辞める勇気もなく て…そうしたら、


『私の所為にして良いから』って、


まりやお 姉さま…そう仰有って」



「誰にも…知られたくなくて、千佳 にも何も云わずに……だから、ごめんなさい」



< p>
そう云って頭を下げる紀香と美和に、千佳は両手を口に当てたまま動かなかった。



「先輩方……」



「私たち の所為で、由佳里にも迷惑を掛けたわね……ごめんなさいね」



「い、いえ…そんな事は……!



< /p>


「私たち、まりやお姉さまには感謝しているのよ。辞めた時にはまだ迷っていて、少しお


姉さまの好意を素直に受け入れられなかったこともあったのだけれど……こうして陸上 と


すっかり離れてみて、それが私たちにとって正しかったって、よく解ったの」




紀香はそう云って由佳里に笑いかけると 、放心している千佳の肩に優しく指を掛けた。



「だからね、 千佳……貴女にも、白分の思った通りにして欲しい。私たちが部を辞めたこ


とが貴女に とっての重荷になっているのなら…それを私たちの所為にしてくれて良いの


よ」



「っ………っっ………………!





千佳はそんな紀香の言葉に、声にならない鳴咽を漏らしなが ら、けれど必死に首を横に


振った。



「私…は、紀香さんと一緒に部活をするのが…とても楽しかったの。それなのにいきなり


辞めてしまって…まりやお姉さまが辞めさせたって、そう聞いて。でも、もうその時には

まりやお姉さまは部に顔をお出しになっていなかったし……どうすることも、私にはどう

< br>することも出来なかったから……!





やがてゆっくりと、震える声で千佳の唇から言葉が紡がれて 行く。




紀香も美和も苦しそうな表 情で、けれど目を背けずに千佳の言葉に耳を傾けている。



「 ……ごめんなさい。せめて、千佳にだけは話をしておくべきだったわ…本当に、ごめん


なさい」



「紀香さん…美和…さん………」




千佳は二人に優しく肩を抱き留められて、顔を両手で覆うと、ゆっくりと泣き始め


た……。




「………由佳里お姉さま?」




校庭に戻ると、初音を始めとした陸上部の部員たちが、心配そうに由佳里の周りに集ま


って来た。



「それで上岡さん、千佳は?」



< /p>


下級生の指導に当たっていた他の三年生たちも、由佳里の方にやって来る。



「千佳部長は…紀香さん達と一緒にお帰りになられました。もう少し、お 二人とお話があ


るそうです」



「そう …千佳さんも最近、随分と気を張っていたみたいだったものね。彼女に部の管理を


任せ っきりだった私たちにも責任があるわね」



「お姉さま方……」



「上岡さん、貴 女の所為じゃないわ。私たちにも落ち度があった…だから気にしないで、


ね?」



「はい……ありがとうございます」




三年生たちの慰めの言葉にそう答えながら、こんなに優しい 人たちしか居ない場所なの


に、どうしてこんな事になってしまうのだろうか……そう、 由佳里は思っていた。そして


きっと、紀香たちを動かしたのは、まりやお姉さまに違い ないと、そう考えた。まりやは


学院を去ってしまったが、それでも彼女は自分の「姉」 なのだと…そんなまりやの心が、


由佳里にはただ、嬉しかった……。

< br>



「でも、だからってこんな事になるなんて……」




明けて次の日の放課後、初音を横に引き連れて桜並木をとぼ とぼと寮に帰る由佳里の姿


があった。



「次の部長を……上岡さん、貴女にお願いしようと思うの」




千佳を筆頭とした三年生たちは、部活にやってきた由佳里に 対して、開口一番にそう宣


言した。千佳は自分の行動は誤りであったと由佳里に謝罪す ると共に、部長職を引退し、


後釜を由佳里にする旨、三年生一同で協議して決めたと云 うのだ。




まだ一学期も半ばで、三 年生も十人以上いるのに…と由佳里は抗弁したが、三年生たち


は自分たちはサポート役 に徹し、協力は惜しまないからと譲らない。そのうち二年生の仲


問たちも三年生の味方 をして、最終的には……初音以外の部内全員からのお願い、と云う


形で、由佳里は二年 の一学期だというのに部長に押し上げられることになってしまった。



「あの……でもきっと、由佳里お姉さまなら立派に部長職の責務をお果たしになられると


思います」




初音はか細 い声だけれど、誇らしげに由佳里にそう宣言する。当の由佳里は、そんな嬉


しそうな初 音を横目で見ながら苦笑する。



「元はと云えば、誰の所為で こんな事になったと思っているのかしら?



初音は」



「えっ…あ、あの……わ、 私の所為、なのでしょうか……で、ではどうすれば……?」




由佳里の軽い恫喝《どうかつ》に、あっという間に泣きそうな…というか、実際に目元


に涙を浮かべると、困惑の表情を浮かべて姉を見上げた。


< /p>


「……はあ、そんな顔しないでよ。仕方がないわね……じゃ、寮に帰ったら美味しいロ?


ヤルミルクテ?ーを淹れなさい。そうしたら勘弁して上げるわ」



「ろ、ロ?ヤルミルクテ?ーですかっ……わ、わかりました!



あ、あの…一生懸命美味


しいのにしますから……っ!





懸命な表情を浮 かべる初音に苦笑すると、由佳里は彼女のさらさらの髪をくしゃりと撫


でた。



「ん、期待してるぞ…我が妹よ」



「はっ、はい……っ!





そうこうしているうちに、寮の明かりが見えてくる。




由佳里は頭の中で、まりやが帰りしなに残していった「あん たがやりたいようにやんな


さい」という言葉を思い返していた。



「そうね…やってみます、まりやお姉さま」



「あの……何か仰有いましたか?」



「いいや……なんでもない。さ、早く中に入ろう…初音」



「……はい、由佳里お姉さま」




由佳里の差し出した手と初音が嬉しそうに取る。




そうして、由佳里の陸上部部長としての最初の一日が、ゆっ くりと終わろうとしてい


た……。



[#改ページ]






妹は騎士さま


!?



「わかった……その勝負受けてやる」




――それは秋の初め、寒風の吹き込み始めた屋上での出来事 だった。




「と云うことで、ヒロ? ンは奏ってことで……良いかしらね?」



< br>どっと、部室の中は拍手の海で溢れかえる。少し背の高くなった奏は、けれど自分より

< br>も背の高い下級生や仲間たちから取り囲まれ、祝福の渦の中にあった。



「そ、そんな緑部長…この脚本でしたら別に私ではなくとも……」




そう抗議する奏だったけれど、今年の演劇部の新入生は半数 以上が去年の演目「?ノセ


ント.ガーデン」に憧れて入部した中等部エスカレーター組 で占められている。そんな彼


女たちにとっては、奏がヒロ?ンの座に着くことは最初か ら規定の事実と云って良かった


のだ。



「ま、後輩たちからの熱烈な支持もあるしね。諦めて頂戴副部長……あ、そうそう、演出

の方もよろしくね」




そう云っ て、演劇部部長.鷲尾緑《わしおみどり》は楽しそうに奏に対してウ?ンクす


ると、の ほほんとした表情で脚本に視線を戻した。




去年は緑先輩はこんなスーダラな人ではなかったはず……と奏は思ったが、今そんなこ


とを考えても仕様のないことだった。部長に任されたからには、副部長たるもの、最早や


らざるを得なかったからである。



「それにしても 五十嵐恵美《いがらしめぐみ》さんか…去年の『?ノセント.ガーデン』


もそうだった けど、なんていうか、良い脚本書くよねぇ……」




緑は去年も使った脚本集を眺めながら、恍惚と溜息を吐きながらそう漏らした。それに


関しては奏も全く同意見だった。



「でも、五 十嵐さんって、


『?ノセント.ガーデン』を書いた頃は、まだ高校生だったんで


すよね……凄いことだと思うのですよ」




今年上演される演目も、この脚本家.五十嵐恵美の作品集から選ばれた。




大正時代の女学生「茅《かや》


」と書生「雄生《ゆうせい》


」の仄《ほの》かな恋心とそ

の別れを、二人が逢瀬の度に語り合う菅原道真《すがわらのみちざね》の人生と別れに重

< br>ねて描いた『白菊の夢~セ.デウスキゼル』という小品だ。


< br>「脚本家さんって、よくもまあこんな話を書けるわよね……っていうか、普通に思いつか


ないと思うんだけど。菅原道真っていうとさ、私なんて梅好きくらいにしか思ってなかっ

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本文更新与2021-03-02 15:38,由作者提供,不代表本网站立场,转载请注明出处:https://www.bjmy2z.cn/gaokao/690621.html

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