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語彙選択と構造転換
中日翻訳の問題点について
このレポートはアクションリサー
チとして行われた中日翻訳練習をもとに
しています。
リサーチ
の方法は、
ニフティサーブの中国フォーラム、
中国語翻
訳通訳会議室で、
報告者が毎週一回翻訳の課題を出し、
フォーラム会員数名が
それに対して訳文を提出する形式で行われました。<
/p>
提出された訳文に対しては、
誤訳あるいは日本語として適切でな
い部分などに報告者からコメントをつけ
ました。
参加者は中国
語学習上級者にあたる日本人で、
なかには実際に翻訳業
務を行
っている人も含まれます。
今回は実際の翻訳文をデータとして、
以下の
点について検討してみました。
1.
中国語から日本語へ訳す時の困難はどこにあるのだろうか。
2.
どのようなことに留意すれば自然な日本語に翻訳できるか。
翻訳に対するコメントを付けていく中で、
< br>中日翻訳の問題点は下記の二点に
集約されることに気づきました。すなわち、<
/p>
1.
語彙選
択問題:どうしても漢字語に引きずられ、
日本語として自然な語
彙を選択できないこと。
2.
<
/p>
統語構造問題
:
原文の統語構造をそのま
ま保持しようとする態度が訳文
を不自然なものにしていること。
以
上の問題点は英日翻訳とは異なります。
なぜなら、
英日翻訳に
おける困難
は、
情報提示の順序を保持することにあるからです
。
どういうことかと言いま
すと、
英日
翻訳で漢文訓読のように後ろから訳し上げてくると、
まず原文の情
報提示の順序を保持できない。
特に関係代名詞の処理などはその最たるもので
p>
す。
関係代名詞に導かれる冗長な修飾句を冒頭に置く翻訳をすると
、
日本語と
して非常に不安定なものになります。そのため、現
在の英日翻訳では、
「順送
りの訳」を特に強調するようになっ
ています。
「順送りの訳」を行うには、文
を分割して短くする
工夫、
そして原文の品詞や文法形式にとらわれずに意味を
伝え
る工夫が必要になってきます(以上、英日翻訳に関しては、安西徹雄『翻
訳英文法』<
/p>
1982
を参考にしました)。
翻って、
中日翻訳を観察しますと<
/p>
「順送りの訳」
を実行するのは決して難し
いことではありません。
もちろん、
中国語も動詞が目的語の
前に出る点は英語
と共通するのですが、
第一に関係詞の用法が
ない、
第二に中国語の文は英語に
比較して短い
(これは基本的に一文字一語のコトバですから当然)
、
第三に目
的語を前置する機能語を使って日本語と同じ主語
-
目的語
-
動詞の順になっ
ている文が比較的多い、
第四に英語と異なり時間や場所は主語の前後に置か
れ
る、第五に英語のような無生物主語構文がきわめて少ないなど「順送りの訳」
を実行しやすい条件がかなり揃っているのです。
しかし、
中日翻訳では上述したよう
に漢字語に引きずられて原文のままの漢
字語を和文に移植して失敗したり、
あるいは原文の品詞にこだわって
(つまり
名詞は
名詞に訳し、
形容詞は形容詞に訳すといったこと)
訓読調にな
って不自
然になったりしがちです。
前者に関しては、
漢字語を適切に言い換える必要が
あります。
と
くに、
大和ことばや慣用句の使用によって中日翻訳はぐっと和文
に近づきます。
後者に関しては、
日本語は名詞と形容詞中心
と言うよりも、
動
詞と副詞を中心とした構文にしたほうが圧倒
的に親しみやすいものです。劉
(『当代翻訳理論』
1993<
/p>
)は中国語から英語への翻訳を扱ったものですが、
以下の点に特
に留意するよう強調しています
(原文は中国語、
翻訳は報告者
に
よる)。
虚詞:
< br>文法マーカー。
意味を表す手段でもある。
文構成に欠か
せない要
素。
?
語順:
文
の意味を形成するための最も重要な役割。
中国語の文構造はそ
の思考方式によって決定される。例;這種墻壁(S話題主語)?往?那
儿(A介詞修飾
語)?釘釘子?尼?(VO構造、動作行為を含意)。こ
の文は表面構造に行為者が表わ
されていないし、
名詞は格と数を示して
いないし、
動詞にはテンスと文法範疇の表示がない。
このような屈折語
との相違をしっかり把握しなければならない。
?
文字:
漢
字は意味を表す文字であるため、
文字の形と思考が直接に結び
つく。
言語学では、
言語の恣意性が言われるが、
漢字は形?音?意味を
同時に持つ三次元構造のコミュニケーション機能を有
している。
?
以上を踏まえて、
実際の課題文と翻
訳を対照しながら中日翻訳における困難
点とその解決方法について検討してみたいと思
います。
中日翻訳の難しさと解決の方法
専門用語、固有名詞の問題
これは翻訳にとって本質的な問題ではありませんが、
実際に中国語か
ら日本語
へ翻訳する際に最も苦労し、
多くの時間を費やす原因
となるものです。
特に中
日翻訳に特徴的なものとして、
ハイテク関係用語や外国人の人名、
地名が全て
漢字で表記されているため、
英日翻訳と異なり、
外来語とし
て音をカタカナに
移せばそれでよいというわけにはいきません。
たとえば、
次のようなことばは
必ず専門辞書なり参考書なり
を見るか、あるいは過去の新聞記事を調べるか、
またはインターネットで検索するなど
して調べ出す必要があります。
数据通信(データ通信)、圖像通信(イメージ通信)、数字
数据通信網(デ
ジタルデータ通信ネットワーク)
、
本地分組交換網
(ローカルエリアパケット
交換通
信網)、有綫電視(ケーブルテレビ)、光纖傳輸網(光ファイバー電送
通信網)、古騰
堡(グーテンベルク)、莎士比亞(シェークスピア)、羅傑大
辞典(ロジェ英語類語大
辞典)、金里奇(キングリッチ)、洛特(ロット)、
瑟蒙徳(サーモンド)、国会山(
キャピタル?ヒル)、等々。
<
/p>
こうした用語の翻訳は、
関連分野について深い知識があれば問題
にならないの
ですが、
翻訳者はどの分野にも精通するわけにい
きません。
したがって調査が
必要になります。
調査を要領よく行えるかどうかが翻訳の効率と質を左右する
大きな要因です。
以上にあげたものの他に注意を要
するものに企業名があります。
例えば香港
の「太古集団」は「
スワイヤ?グループ」、台湾のコンピュータ会社「宏碁」
は
「
エイサー」
です。
漢字でそのまま表記して読者の誤解を招かぬ
よう留意す
べきでしょう。
漢字語の問題
中日翻訳で最も手を焼くのが、
原文の漢字語をそのまま使いたくなる、
または
辞書的対応で置き換えたくなる、
というこ
とです。
たとえば、
次のような例を
見
てみましょう。
1.
供需兩个市場力量在現実社会里是無所不在的:
需要と供給という二つの市場の力は現代社会の至る所で働いています。
<
/p>
→「市場の力」では何のことかよくわからない。これは「市場を支配す
< br>る力」つまり「市場価格の決定要因」ということでしょう。
2.
因為供需不同:
需要と供給が異なるから
→非常に曖
昧な表現です。
何がどう異なるのかという疑問を抱かずにお
れ
ません。
ここは「需要量と供給量の関係が異なる」という意
味に訳します。
3.
不論文学程度:
文学の程度に関わらず
→
「文学の程度」
では何のことか見当がつきません。
文学的素養がある
かどうか、
日頃から文学に親しんでいるか
どうかを問題にしている箇所
です。
4.
全国首家自助郵局在穗出現:
全国で初めてのセルフサービス郵便局出現
→郵便局が「出現」することはない。「開局」とします。
5.
郵品自助設計是一个極富趣味性的系統,:
郵便自動デザインシステムは意趣に富んだシステムで、
p>
→「意趣に富んだ」では原文のままです。それに、ここは原文の品詞を
保持せずに「手紙やはがきを自分でデザインできる大変面白いシステ
ム」と言って
もよいでしょう。
6.
用戸完全可以按照自己的構思和意圖自行設計和制作心愛的賀
ka3
,:
利用者は自分の構想と意図で心を込め
たグリーティングカードをデザ
インでき、
< br>→
「構想と意図」
も原文のまま写しただけです。
同じように漢字語を使
うのでも、「創意工夫」などとすれば日本語ら
しくなります。
7.
得到美国人民的積極支持,也得到民主党和共和党的一致讃同:
アメリカ国民の積極的な支持と民主、共和、両党の賛同を得て
→ここも同様に原文の「積極的支持」と「賛同」をそのまま使っていま
す。
それほどひどい違和感はありませんが、
やはり上
等とは言えない翻
訳になっています。
ここも日本語らしく動詞
構文にできます。
「貴国の
国民は両国関係の強化を希望してお
りますし、
またこの点については民
主?共和両党も同様であり
ます」
などとしてもバチはあたるまいと思い
ます。
8.
竟然一口気轉不過来:
こともあろうに、突然息ができなくなり、
< br>→ここは誤訳といってもよいかもしれません。
「あっけなく亡くなって
しまった」ということです。
9.
我的心好象有個結打住,無論如何都打不開:
私は心をだんご結びにしてしまったかのように、
固く閉ざしてしまいま
した。
→これも同様に慣用表現を理解して
いないために誤訳となりました。
「心に結び目がある」
すなわ
ち、
「悩みがある」
、
「悲しいことが
ある」
ということです。
以上のような漢字語は日本語で用いる漢字の意味とそう遠くかけ離れてい
るものではないため、
読み手に意味がわからなくなるという心配はあまりない
かもしれません。
しかし、
それだけに漢字を
そのまま使うという安易な態度に
走りやすい。
したがって、<
/p>
これを避けるためには常日頃から日本語の語感を鋭
くしておく必
要があります。
そのためには、
翻訳ではない、
最初から日本語で
書かれた同じような内容、
分野の文
章を読んでみることが役立ちます。
日本語
で書かれた同様のタ
イプのテキストがどのような表現法を用いるものなのか、
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