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川端康成 - 伊豆的舞女(日文原版)

作者:高考题库网
来源:https://www.bjmy2z.cn/gaokao
2021-02-17 13:31
tags:

-

2021年2月17日发(作者:disguised)


第一章







道がつづら折りになって、


いよいよ


天城峠


に近づいたと思うころ、


雨足が杉


の密林を白く染めながら、すさまじい早さで麓から私を追 って来た。



私は二十歳、


高等学校< /p>


の制帽をかぶり、


紺飛白の着物に袴をはき、

学生カバ


ンを肩にかけていた。


一人伊豆の旅に出てから四 日目のことだった。


修善寺温



に一夜 泊まり、


湯ヶ島温泉


に二夜泊まり、


そ して朴歯の高下駄で天城を登っ


て来たのだった。重なり合った山々や原生林や深い渓谷 の秋に見とれながら


も、


私は一つの期待に胸をときめかして道 を急いでいるのだった。


そのうちに


大粒の雨が私を打ち始めた 。


折れ曲がった急な坂道を駆け登った。


ようやく



の北口


の茶屋にたどり着いてほっとすると同時に 、


私はその入口で立ちすくん


でしまった。

あまりに期待がみごとに的中したからである。


そこに旅芸人の一

< br>行が休んでいたのだ。



突っ立っている私を見た踊子が すぐに自分の座布団をはずして、


裏返しにそ


ばに置いた。



「ええ


????



」とだけ言って、私はその上に腰をおろした。坂道を走った息


切れと驚きとで、


?


ありがとう。


?


という言葉が喉にひっかかって出なかったの


だ。



踊子とま近に向かい合ったので、


私はあわてて袂 から煙草を取り出した。



子がまだ連れの女の前の煙草盆を引 き寄せて私に近くしてくれた。


やっぱり私


は黙っていた。



踊子は十七くらいに見えた。


私にはわか らない古風の不思議な形に大きく髪


を結っていた。


それが卵型 のりりしい顔を非常に小さく見せながらも、


美しく


調和してい た。


髪を豊かに誇張して描いた、


稗史的な娘の絵姿のような感 じだ


った。


踊子の連れは四十代の女が一人、

< br>若い女が二人、


ほかに長岡温泉の印半


纏を着た二十五六 の男がいた。



私はそれまでにこの踊子を二度見ているのだっ た。


最初は私が


湯ヶ島


へ来る


途中、


修善寺


へ行く彼女たちと


湯川橋


の近くで出会った。


その時は若い女が三


人だったが、


踊子は太鼓をさげていた。


私は 振り返り振り返り眺めて、


旅情が


自分の身についた

< p>
と思った。


それから、


湯ヶ島の二日目の夜、


宿屋へ流しが来


た。


踊子が


玄関の板敷


で踊るのを、


私は


梯子段


の中途に腰をおろして一心に見


ていた。



あの日が修善寺で今夜が湯ヶ島なら、


明日は天城を 南に越えて湯ヶ


野温泉へ行くのだろう。


天城七里の山道できっ と追いつけるだろう。


そう空想


して道を急い

< br>だの


だったが、


雨宿りの茶屋でぴったり落ち合ったもの だから私


はどぎまぎしてしまったのだ。


まもなく、


茶屋の婆さんが私の別の部屋へ案内してくれた。


平常


用は


ないら


しく戸障子がなかっ た。下をのぞくと美しい谷が目の届かないほど深かった。


私は膚に粟粒をこしらえ、< /p>


かちかちと歯を鳴らして身震いした。


茶を入れに来


た婆さんに、寒いというと、



「おや、

< p>
だんな様おぬれになってるじゃございませんか。


こちらでしばらく


おあたりなさいまし、さあ、おめしものをおかわかしなさいまし。


」 と、手を


取るようにして、自分たちの居間へ誘ってくれた。



その部屋は炉が切ってあって、


障子をあけると強い火気が流れ て来た。


私は


敷居ぎわに立って躊躇した。

水死人のように全身青ぶくれの爺さんが炉端にあ


ぐらをかいているのだ。


瞳まで黄色く腐ったような目を物うげに私の方へ向け


た。


身の回りに古手紙や紙袋の山を築いて、


その紙くずのなかに埋もれている< /p>


と言ってもよかった。


とうてい生物と思えない

< br>山の怪奇


を眺めたまま、


私は棒


立ちになった。



「こんなお恥ずかしい姿をお見せいたしまし て


????


。でも、うちのじじいで


ご ざいますからご心配なさいますな。


お見苦しくても、


動けない のでございま


すから、このままで堪忍してやって下さいまし。




そう断ってから、婆さんが話したところによると爺さんは 長年中風を煩っ


て、


全身が不随になってしまっているのだそう だ。


紙の山は、


諸国から中風の


療法を 教えて来た手紙や、


諸国から取り寄せた中風の薬の袋なのである。

爺さ


んは峠を越える旅人から聞いたり、


新聞の広告を見た りすると、


その一つをも


漏らさずに、全国から中風の療法を聞 き、売薬を求めたのだそうだ。そして、


それらの手紙や紙袋を一つも捨てずに身の回り に置いて眺めながら暮らして


来たのだそうだ。長年の間にそれが古ぼけた反古の山を築 いたのだそうだ。



私は婆さんに答える言葉もなく、


囲炉裏の上にうつむいていた。


山を越える


自動 車が家を揺すぶった。


秋でもこんなに寒い、


そしてまもなく雪 に染まる峠


を、


なぜこの爺さんはおりないのだろうと考えてい た。


私の着物から湯気が立


って、


頭が 痛むほど火が強かった。


婆さんは店に出て旅芸人の女と話していた。

< br>


「そうかねえ。


この前連れていた子がもうこんなにな つたのかい。


いい娘


(あ


んこ)になっ て、お前さんも結構



だよ。こんなにきれいに


なったかねえ


。女


の子は早いもんだよ。




小一時間経つと、


旅芸 人たちが出立つらしい物音が聞こえて来た。


私も落ち


着いてい る場合ではないのだが、


胸騒ぎするばかりで立ち上がる勇気が出なか

< br>った。


旅慣れたと言っても女の足だから、


十町や二十町


遅れたって一走りに追


いつけると思いながら、


炉のそばでいらいらしていた。


しかし踊子たちがそば


にいなくなると、


かえって私の空想は解き放たれたように生き生きと踊り始め


た。彼らを送り出して来た婆さんに聞いた。



「あの芸人は今夜どこで泊まるんでしょう。




「あんな者、


どこで泊まるやらわかるものでございますか、


旦那様。


お客が


あればあり次第、

どこにだって泊まるんでございますよ。


今夜の宿のあてなん


ぞございますものか。




はなはだ しい軽べつを含んだ婆さんの言葉が、


それならば、


踊子を今夜 は私


の部屋に泊まらせるのだ、と思ったほど私をあおり立てた。



雨足が細くなって、


峰が明るんで来た。

< br>もう十分も待てばきれいに晴れ上が


ると、しきりに引き止められたけれども、じ っとすわっていられなかった。



「爺さん、お大事になさいよ 。寒くなりますからね。


」と私は心から言って


立ち上がった。 爺さんは黄色い眼を重そうに動かしてかすかにうなずいた。



「旦那さま、旦那さま。


」と叫びながら婆さんが追っかけて来た。


「こんなにいただいてはもったいのうございます。


申し わけございません。




そして私のカ バンを抱きかかえて渡そうとせずに、


いくら断わってもその辺


まで送ると言って承知しなかった。


一町


ばかりもちょこちょこ ついて来て、



じことを繰り返していた。


「もったいのうごさいます。


お粗末いたしました。


お顔をよく覚えておりま


す。


今度お通りの 時にお礼をいたします。


この次もきっとお立ち寄り下さいま


し 。お忘れはいたしません。




私は< /p>


五十銭


銀貨を一枚置いただけだったので、


痛く驚いて涙がこぼれそうに


感じているのだったが、


踊子に 早く追いつきたいものだから、


婆さんのよろよ


ろした足取りが 迷惑でもあった。とうとう峠のトンネルまで来てしまった。



「どうもありがとう。お爺さんが一人だから帰ってあげて下さい。


」と私が

< p>
言うと、婆さんはやっとのことでカバンを離した。


暗い


トンネル


に入ると、


冷たい雫 がぽたぽた落ちていた。


南伊豆への出口が前


方に小さく明るん でいた。





(文中の


赤文字


は、底本にした文庫本と初版本との相違箇所 です)







第二章




トンネルの出口から白塗りのさくに片側を縫われた


峠道


が稲妻のように流れていた。


この模型のような展望の裾のほうに芸人 たちの姿が見えた。


六町と行かないうちに私は彼


らの一行に追 いついた。


しかし急に歩調をゆるめることもできないので、


私 は冷淡なふう


に女たちを追い越してしまった。


十間

< p>
程先きに一人歩いていた男が私を見ると立ち止まっ


た。

< br>


「お足が早いですね。-いい塩梅に晴れました。


」< /p>



私はほっとして男を並んで歩き始めた。男は次ぎ次ぎにいろん なことを私に聞いた。


二人が話し出したのを見て、うしろから女たちがばたばた走り寄 って来た。



男は大きい柳行李を背負っていた。


四十女


は小犬を抱いていた。上の娘が風呂敷包み、


中の娘が柳行李、


それぞれ大きい荷物を持っていた。


踊子は太 鼓とそのわくを負うていた。



四十女もぽつぽつ私に話しかけた。



「高等学校の学生さんよ。


」と、上の娘が踊子にささやいた。私が振り返ると笑いなが


ら言った。



「そうでしょう。それく らいのことは知っています。島へ学生さんが来ますもの。




一行は大島の波浮の港の人たちだった。春に島を出てから旅を続けているのだが、寒< /p>


くなるし、


冬の用意はして来ないので、


下田に十日ほどいて伊東温泉から島へ帰るのだと


言った。


< /p>


大島と聞くと私は一層詩を感じて、


また踊子の美しい髪を眺めた 。


大島のこと


もいろいろ尋ねた。


< /p>


「学生さんがたくさん泳ぎに来るね。


」踊子が連れの女に言った 。



「夏でしょう。


」と、私がふり向 くと、踊子はどぎまぎして、



「冬でも


????



」と、小声で答えたように思われた。

< p>


「冬でも?」



踊子はやはり連れの女を見て笑った。



「冬でも泳げるんですか。


」と、私はもう一度言うと、


踊子 は赤くなって


、非常にまじ


めな顔をしながら軽くうなずいた。



「ばかだ。この子は。


」と、四十女 が笑った。



湯ヶ野


までは

< p>
河津川の渓谷に沿うて三里余りの下りだった


。峠を越えてからは、


山や


空の色までが南国らしく


感じられた。< /p>


私と男とは絶えず話し続けて、


すっかり親しくなっ


た。


荻乗や梨本なぞの小さい村里を過ぎて、


湯ヶ野 のわら屋根が麓に見えるようになった


ころ、私は


下田


までいっしょに旅をしたいと思い切って言った。彼は大変喜んだ。


< /p>


湯ヶ野の木賃宿の前で四十女が、ではお別れ、という顔をした時に、彼は言ってくれ


た。



「この方はお連れになりたいとおっ しゃるんだよ。




「それは、それは 。旅は道連れ、世は情。私たちのようなつまらない者でも、ご退屈


しのぎにはなります よ。まあ上がってお休みないまし。


」とむぞうさに答えた。娘たちは

< br>一時に私を見たが、


至極なんでもないという顔


をして< /p>



少し恥ずかしそう


に私を眺めてい


た。



皆といっしょに宿屋の二階へ上がっ て荷物を降ろした。


畳や襖も古びてきたなかった。


踊子が下か ら茶を運んで来た。


私の前にすわると、


真紅になりながら手を ぶるぶる震わせ


るので茶碗が茶托から落ちかかり、落とすまいと畳に置く拍子に茶をこ ぼしてしまった。


あまりにひどいはにかみようなので、私はあっけにとられた。



「まあ!いやらしい。


この子は色気づいた んだよ。


あれあれ


あれ


????



」と、四十女が


あきれはてたというふうに 眉をひそめて手拭を投げた。


踊子はそれを拾って、


窮屈そうに


畳をふいた。



この意外な言葉で、私 はふと自分を省みた。峠の婆さんにあおり立てられた空想がぽ


きんと折れるのを感じた 。



そのうちに突然四十女が、



「書生さんの紺飛白はほんとにいいねえ。


」と言って、しげしげ私 を眺めた。



「この方の飛白は民次と同じ柄だね。そうだね。 同じ柄じゃないかね。




そばの女に幾度もだめを押してから私に言った。


< p>
「国に学校行きの子供を残してあるんですが、その子を今思い出しましてね。その子


の飛白と


柄が


同じなんでですもの。この節は紺飛白 もお高くてほんとに困ってしまう。




「どこの学校です。





尋常五年


なんです。


」< /p>



「へえ、尋常五年とはどうも


????




「甲府の学校へ行ってるんでござ いますよ。長く大島におりますけれど、国は甲斐の


甲府でごさいましてね。

< p>



一時間ほど休んでから、男が私を別の温泉宿 へ案内してくれた。それまでは私も芸人


たちと同じ木賃宿に泊まることとばかり思って いたのだった。


私たちは街道から石ころ路


や石段を一町ばかり おりて、


小川のほとりにある


共同湯



横の橋


を渡った。


橋の向こうは


温泉宿




だった。



そこの


内湯


につかっていると、あとから男がはいって来た。自分が二十四になること


や、


女房が二度とも流産と早産とで子供を死なせたことなぞを話し


出し


た。


彼は長岡温泉


の印半纏を着ているので 、


長岡の人間だと私は思っていたのだった。


また顔つきも話ぶ り


も相当知識的なところから、


物好きか芸人の娘にほれたかで 、


荷物を持ってやりながらつ


いて来ているのだと想像していた 。



湯から上がると私はすぐに昼飯を食べた。湯ヶ島を朝の八 時に出たのだったが、その


時はまだ三時前だった。



男が帰りかけに、庭から私を見上げてあいさつをした。



「これで柿でもおあがりなさい。二階から失礼。



と言って、私は金包みを投げた。男


は断って行き過ぎようとしたが、


庭に紙包みが落ちたままなので、


引き返してそれを拾う


と、



「こんなことをなさっちゃいけません。



とほうり上げた。


それが藁屋根の上に落ち た。


私がもう一度投げると、


男は持って帰った。



タ暮れからひどい雨になった。山々の姿が遠近を失って白く染まり、前の 小川が見る


見る黄色く濁って音を高めた。


こんな雨では踊子た ちが流して来ることもあるまいと思い


ながら、私はじっとすわっていられないので二度 も三度も湯にはいってみたりしていた。


部屋


は薄暗かった。< /p>


隣室との間の襖を四角く切り抜いたところに鴨居から電燈が下がって

いて、一つの明かりが二室兼用になっているのだった。



ととんとんとん、激しい雨の音の遠くに太鼓の響きがかすかに生まれた。私はかき破


る ように雨戸をあけて体を乗り出した。


太鼓の音が近づいてくるようだ。


雨風が私の頭を


たたいた。


私は眼を閉じて耳を澄まし ながら、


太鼓がどこをどう歩いてここへ来るかを知


ろうとした 。


まもなく三味線の音が聞こえた。


女の長い叫び声が聞こえた 。


にぎやかな笑


い声が聞こえた。


そし て芸人たちは木賃宿と向かい合った料理屋のお座敷に呼ばれている


のだとわかった。< /p>


三四


人の女の声と


二三

< br>人の男の声とが聞き分けられた。


そこがすめばこ


ちらへ 流して来るのだろうと待っていた。


しかしその酒宴は陽気を越えてばか騒ぎになっ


て行くらしい。


女の金切り声が時々稲妻のようにやみ夜に鋭く通っ た。


私は神経をとがら


せて、


いつまで も戸をあけたままじっとすわっていた。


太鼓の音が聞こえる度に胸がほう


と明るんだ。



「ああ、踊子はまだ宴席にすわって いたのだ。すわって太鼓を打っているのだ。




太鼓がやむとたまらなかった。雨の音の


底に沈み込ん


でしまった。



やがて、皆が追っかけっこをしているのか、 踊り回っているのか、乱れた足音がしば


らく続いた。そして、ぴたと静まり返ってしま った。私は目を光らせた。


この静けさが何


であるかをやみを通 して見ようとした。踊子の今夜が汚れるのであろうかと悩ましかっ


た。



雨戸を閉じて床にはいっても胸が苦しかった。


また 湯にはいった。


湯を荒々し


くかき回した。

雨が上がって、


月が出た。


雨に洗われた秋の夜がさえざえ と明


るんだ。


はだしで湯殿を抜け出して行ったって、


どうともできないのだと思っ


た。二時を過ぎていた。

< br>





第三章





あくる朝の九時過ぎに、


もう男が私の宿に訪ねて来た。


起きたばかりの私


は彼を誘って湯に行った。


美しく晴れ渡った南伊豆の小春日和で、


水かさの増


した小川が 湯殿の下に暖く日を受けていた。


自分にも昨夜の悩ましさが夢のよ

うに感じられるのだったが、私は男に言ってみた。



「昨 夜はだいぶ遅くまでにぎやかでしたね。




「なあに。ー聞こえましたか。




「聞こえましたとも。



< p>
「この土地の人なんですよ。


土地の人はばか騒ぎをするばかりで、


どうもお


もしろくありません。


< p>



彼が余りに何げないふうなので、私は黙ってしまった。



「向こうのお湯にあいつらが来ています。


ーほれ、


こちらを見つけたと見え


て笑っていやがる。




彼に指ざされて、


私は川向こうの共同湯の ほうを見た。


湯気の中に七八人の


裸體がぽんやり浮かんでいた 。



ほの暗い湯殿の奥から、


突然裸の 女が走り出して来たかと思うと、


脱衣場の


とっぱなに川岸へ飛 びおりそうな格好で立ち、


両手を一ぱいに伸ばして何か叫


んで いる。


手拭もない真裸だ。


それが踊子だった。


若桐のように足のよく伸び


た白い裸身を眺めて、


私は 心に清水を感じ、


ほうっと深い息を吐いてから、


< p>
とこと笑った。


子供なんだ。


私たちを見つけ喜び で真裸のまま日の光の中に飛


び出し、


爪先きで背いっぱいに伸 び上がるほどに子供なんだ。


私は朗らかな喜


びでことこと笑い 続けた。


頭がぬぐわれたように澄んで来た。


微笑がいつまで< /p>


もとまらなかった。



踊子の髪が豊か過 ぎるので、


十七八に見えていたのだ。


その上娘盛りのよう


に装わせてあるので、私はとんでもない思い違いをしていたのだ。



男といっしょに私の部屋に帰っていると、


まもなく上の娘が宿 の庭へ来て菊


畑を見ていた。


踊子が橋を半分ほど渡っていた。


四十女が共同湯を出て二人の


ほうを見た。

踊子はきゅっと肩をつぼめながら、


しかられるから帰ります




いうふうに笑って見せて急ぎ足に引き返した。四十女が 橋まで来て声を掛け


た。



「お遊びにいらっしゃいまし。




「お遊びにいらっしゃいまし。



< /p>


上の娘も同じことを言って、


女たちと帰って行った。

< p>
男はとうとう夕方まで


すわり込んでいた。



夜、


紙類を卸して回る行商人と碁を打っていると、


宿の庭に突然太鼓の書が


聞こえた。私は立ち上がろうとした。



「流しが釆ました。



< /p>


「ううん、つまらない。あんなもの。さ、さ、あなたの手ですよ。私ここへ


打ちました。


」と、碁盤をつつきながら紙屋は勝負に夢中だった。私はそわ そ


わしているうちに芸人たちはもう帰り道らしく、男が庭から、



「今晩は。


」と声を掛けた。




私は廊下に出て手招きした。


芸人た ちは庭でちょっとささやき合ってから


玄関へ回った。男の後ろから娘が三人順々に、< /p>



「今晩は。


」と、廊下に手をついて芸 者のよう



お辞儀をした。碁盤の上で


は急に私の負け色が見え出した。



「これじゃしかたがありま せん。投げですよ。




「そんなこと があるもんですか。


私のほうが悪いでしょう。


どっちにしても


細かいです。



紙屋は芸人のほうを見向きもせずに、


碁盤の目を一つ一つ数えてから、

< p>
ます


ます注意深く打って行った。


女たちは太鼓や 三味線を部屋のすみにかたづける


と、


将棋盤の上で五目並べを 始めた。


そのうちに私は勝っていた碁を負けてし


まったのだが 、紙屋は、



「いかがですもう一石、


もう一石願いましょう。



と、


しつっ こくせがんだ。


しかし私が意味もなく笑っているばかりなので紙屋はあきらめて立ち上 がっ


た。



娘たちが碁盤の近くへ出て来た。



「 今夜はまだこれからどこかへ回るんですか。




「回るんですが。


」と、男は娘たちのほうを見た。



「どうしよう。今夜はもうよしにして遊ばせていただくか。




「うれしいね。うれしいね。




「しかられやしませんか。




「なあに、それに歩いたってどうせお客がないんです。


< p>


そして五目並べなぞをしながら、十二時過ぎまで遊んで行った。



踊子が帰ったあとは、


とても眠れそうもな く頭がさえざえしているので、



は廊下に出て呼んでみた。< /p>



「紙屋さん、紙屋さん。




「よう






と、


六十近い爺さんが部屋から飛び 出し、


勇み立って言った。



「今晩は 徹夜ですぞ。打ち明かすんですぞ。




私もまた非常に好戦的な気持ちだった。






第四章




そ の次の朝八時が湯ケ野出立の約束だった。


私は共同湯の横で買った鳥打ち


帽をかぶり、


高等学校の制帽をカバンの奥に押し込んでしまって、


街道沿いの


木賃宿へ行った。


二階の戸障子がす っかりあけ放たれているので、


なんの気な


しに上がって行くと 、


芸人たちはまだ床の中にいるのだった。


私は面くらって


廊下に突っ立っていた。



私の足もとの寝 床で、


踊子がまっかになりながら両の掌ではたと顔を押えて


し まった。


彼女は中の娘と一つの床に寝ていた。


昨夜の濃い化粧 が残っていた。


唇と眦の紅が少しにじんでいた。


この情緒的な 寝姿が私の胸を染めた。


彼女は


まぷしそうにくるりと寝返りし て、掌で顔を隠したまま蒲団をすべり出ると、


廊下にすわり、


「昨晩はありがとうどざいました。



と、

きれいなお辞儀をして、


立ったままの私をまごつかせた。



男は上の娘と同じ床に寝ていた。


それを見るまで私は、


二人が夫婦であるこ


とをちっとも知らなかったのだった。

< p>


「大変すみませんのですよ。


今日立つつもりで したけれど、


今晩お座敷があ


りそうでございますから、


私たちは一日延ばしてみることにいたしました。


< br>うしても今日お立ちになるなら、


また下田でお目にかかりますわ。


私たちは甲


州屋という宿屋にきめておりますから、すぐおわかりになります 。


」と四十女


が寝床から半ば起き上がって言った。私は突っ放 されたように感じた。



「明日にしていただけませんか。


おふくろが一日延ばすって承知しないもん


ですからね。

< p>
道連れのあるほうがよろしいですよ。


明日いっしょに参りましょ


う。


」と男が言うと、四十女も付け加えた。



「そうなさいましよ。


せっかくお連れになっていただいて、< /p>


こんなわがまま


を申しちゃすみませんけれどー。


明日は槍が降っても立ちます。


明後日が旅で


死んだ赤 ん坊の四十九日でございましてね、四十九日には心ばかりのことを、


下田でしてやりた いと前々から思って、


その日までに下田へ行けるように旅を


急 いだのでございますよ。


そんなことを申しちゃ失礼ですけれど、


不思議なご


縁ですもの、明後日はちょっと拝んでやって下さいましな。




そこで私は出立を延ばすことにして階下へ降り た。


皆が起きて来るのを待ち


ながら、


きたない帳場で宿の者と話していると、


男が散歩に誘った。


街 道を少


し南へ行くときれいな橋があった。


橋の欄干によりかか って、


彼はまた身の上


話を始めた。


東 京である新派役者の群れにしばらく加わっていたとのことだっ


た。

今でも時々大島の港で芝居をするのだそうだ。


彼らの風呂敷から刀の鞘が


足のようにはみだしていたのだったが、


お座敷でも芝居のまねをして見 せるの


だと言った。柳行李の中はその衣裳や鍋茶碗なぞの世帯道具なのである。



「私は身を誤った果てに落ちぶれてしまいましたが、


兄が甲府で立派に家の


跡目を立てていてくれます。だから私はまあ入らない 体なんです。




「私はあなたが長岡 温泉の人だとばかり思っていましたよ。



< br>「そうでしたか。


あの上の娘が女房ですよ。


あなたより 一つ下、


十九でして


ね、


旅の空で二度 目の子供を早産しちまって、


子供は一週間ほどして息が絶え


る し、


女房はまだ体がしっかりしないんです。


あの婆さん


は女房の実のおふく


ろなんです。踊子は私の実の妹ですが。




「へえ。十四になる妹があるっていうのは ー。




「あいつですよ。

< p>
妹にだけはこんなことをさせたくないと思いつめています


が、そこにはま たいろんな事情がありましてね。




それから、


自分が栄吉、


女房が千代子、


妹が薫ということなぞを教えてくれ


た。


もう一人の百合子と いう十七の娘だけが大島生まれで雇いだとのことだっ


た。


栄吉 はひどく感傷的になって泣き出しそうな顔をしながら河瀬を見つめて


いた。

< p>


引き返して来ると、


白粉を洗い落とした踊子が 道ばたにうずくまって犬の頭


をなでていた。私は自分の宿に帰ろうとして言った。



「遊びにいらっしゃい」



「ええ。でも一人ではー。




「だから兄さんと。




「すぐに行きます。




まもなく栄吉が私の宿へ来た。



「皆は?」


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